最近読んだ本-ジュンパ・ラヒリ「The Namesake(邦題:その名にちなんで)」
ジュンパ・ラヒリはベンガル系インド人移民で、現在にアメリカに住む。7-8年前に短編集「The Interpreter of Maladies(邦題:停電の夜に)」がピューリツァー賞を受賞し、期待される新人作家の一人だ。
私はインド系作家(英語で書いている、という意味で)が大ファンだ。昔はナラヤン、ナイポール、ラシュディー(パキスタン系だが)、最近はヴィクラム・セットが大好きだ。でもジュンパ・ラヒリは女性ということもあり、ちょっと違った感性を持っていて、しかも読みやすい。ということで読んでみた。
ストーリーは一言で言ってしまえば、インドからアメリカに移住してきたベンガル人家族2世のアイデンティティー探しの物語だ。
アメリカにおけるインド人頭脳労働者の数は計り知れない。シリコンバレー、大学、工学、そのほか化学の分野はもちろんのこと、経済などの分野で活躍している。移民一世の特徴としては、実用的な分野で、頭脳ひとつを武器に、確固たる地位を自らの力で手に入れたということだ。
この本の登場人物(主人公の両親)もまったくこのパターンでアメリカに移住し、工学の教授として大学に勤めている。大学でのプロフェッショナルな面と同時に、プライベートでは同郷の友人と交流し、いつもふるさとへの思いを忘れない。心はインド人として、そしてベンガル人としてのアイデンティティーを確固として持っている。
しかし2世となると、なかなか難しい。家庭内ではベンガルの伝統文化を尊重しているが、アメリカの学校に通ったり、テレビを見たり、生まれたときからどっぷりとアメリカ文化につかっている彼らにとって、「故郷」の伝統文化は異質のものだ。そしてアメリカとインドの対極的ともいえる価値観の狭間で、ある種2重人格のように振舞わなければならない。
もうひとつの移民家族の特徴は、インドの知識層は芸術や文化への造詣が深いのだが、一世は無難で実用的な分野において、生活を確立する。しかし二世ともなると、親への反発もあって、もっと芸術や文化へ進む人が多い。まあこれはインド人だけの傾向ではないかもしれないが。ちょっとわき道にそれるが、私の大好きなパキスタン系イギリス人の俳優アート・マリックもお父さんは医者としてイギリスにやってきた。しかし息子のアートは親の大反対にあいながら俳優の道を選ぶ。
「その名にちなんで」の主人公も父親の職業にまったく興味を示さず、絵を描くのが好きで、建築家になる。
さて、読んだ感想だが、彼女もベンガル系移民2世なので、描写にとてもリアリティーがある。しかしストーリーはあまりにも予測がつきやすい。移民系作家によるアイデンティティー探し、というのはアメリカ文学のひとつの大きなテーマだが、その筋書き通りのストーリーだ。
もうひとつ違和感を抱いたのは、アメリカ人のインドに対する無知を強調しすぎた点だ。もちろんそれがユーモラスなエピソードに展開するのだが、ジュンパ・ラヒリの情緒ある、流れるような文体にこれは必要ないと思う。しかも舞台はミューヨークの知識層なので、そこまでインドに対する差別や無知が横行しているとは思えない。
とはいいながら、全体的にとても美しい本だった。ジュンパ・ラヒリが大切にしている世界をゆっくりと紐解いて見せてくれた、という感じ。それは不器用だけれども、家族を守るために異国に根付こうとする両親の姿であり、2つの文化のギャップに苦しみながらも、両親に反発しながらも、いつかはその愛情の暖かさと深さに抱かれることを選ぶ子どもの姿だ。簡単にさらっと読めるが、後に深い感動が残ること間違いなし。読書の秋に是非お勧めです。


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