たそがれ時のバーで往年の世界チャンピオンが一人で酒を飲んでいる。あのときの若々しいスピリットも引き締まった肉体も、もはや失われてしまった。そして彼の過去の栄光を知るものもなかった。世界を制覇した時点で、彼の時は止まった。時代の流れも、次々に自分を追い越していった人々の姿も彼の目には入らなかった。
彼にとっての誤算(そして悲劇)は、戦いの意味を取り違えていたことだ。世界チャンピオンになることよりも、その座を維持し続けることが本当の戦いだ。この事実を理解しようとしなかった。
ファイトマネーはとっくに底をついた。でも彼は酒を注文し続けた。「俺は世界チャンピオンさ。お前たちに夢を与えたんだ。酒ぐらいおごるのは当たり前だろ」客は彼に冷笑を浴びせた。「またほら話が始まった」とうんざりしているのだ。「過去の栄光にしがみついてないで、仕事しろよ」とアドバイスする親切な人もいたが、彼の頭の中では、あの輝かしい瞬間がエンドレスで回っているのだ。次第に分別くさいことをいう人もいなくなった。
彼は空のグラスを軽く持ち上げ、バーテンダーにウィンクした。バーテンダーはそのこっけいな姿を鼻先で笑ったが、それを愛想笑いに取り替えていった。「世界チャンピオンにもう一杯!」酒を拒否したら、当然あいつは暴れるさ。そうしたら困るのは自分だからな、とバーテンダーは心の中で自分を納得させた。
ブッシュ大統領下の8年間は失われた8年だった。と、歴史学者は書いただろうが、今は「ブッシュ政権下の8年は悪夢の8年だった」と書くだろう。
なぜか、それは一言で言うと.大きな時代錯誤、時代逆流だからだ。
エネルギー危機が現実のものになりつつあり、温暖化の影響が見え始めている。この現実を受けて、ヨーロッパの国々は大きく政策を転換した。産業も変わった。もともと限られた資源を有効利用することに長けてきた日本人は、エコ技術で世界をリードするようになった。それに反してアメリカは傲慢にもまったく対策を怠った。
冷戦が終わり、世界はボーダーレスになりつつある。このような世界には「善悪」の構造はもはや通用しない。しかしアメリカは外に「敵」を作ることによって、自らの行動を正当化し続けた。
そしてアメリカの善良な労働者(勤労を美徳と考える人々)が浮かばれない政策の数々を行ってきたことだ。
もっともっと主張したいが、長くなるので、アメリカの現状を統計で見てもらいたい。アメリカンドリームは希望ではなくて悪夢だったのか、と思ってしまう。
アメリカ人が所有する銃の数:2億3000万丁(残念ながらオバマ氏が大統領になる前に駆け込みで購入している人が多くいるらしい)
イラク戦争につぎ込んだお金:2500億ドル(2005年現在)、しかしある本によると3兆ドル!
国家借入金:7兆3547億ドル(2004年現在)
累積赤字:9兆ドル
ホームレス人口:350万人
医療保険をもたない人:4500万人(日本で健康保険をもたない子どもは3万人いる、と報道されたばかりだ)
貧困児童数:1300万人(先進国で最多)
書いていて、数の大きさにボーっとなってしまった。
でも最後にジャーナリストのファリード・ザカリア氏の希望の言葉を:
「今一度アメリカが将来を作り出すことができたら、世界の人々はどう思うか、それを想像してみよう。そして機会の平等というこの国の建国の理念を今一度現実のものにし、この国には大統領の椅子にも壁はないことを、そして褐色の肌をして、聞きなれない名前の人にとっても壁がないことをその目で見ることができたら、アメリカ人はどう感じるだろうか、それを想像してみよう」
変化が必要、と書いたが、現実には選択肢は残されていない。しかも、日本のテレビドラマみたいな生ぬるい変化ではない。価値観がひっくり返るくらいの変化が必要とされている。オバマ大統領が誕生しても、このような最悪の状態ではアメリカ崩壊を防ぐことができないかもしれない。でも1%でも10%でもとにかくこのチャンスに賭けるしかない、と多数の人が感じている。投票権を持っているのはアメリカ国民だけだが、今回の結果が世界中に大きな影響を及ぼすことを考えると、本当に「最後の戦い」になることは間違いない。そしてアメリカに盲目的に随従してきた日本も、大きな選択を迫られるだろう。
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